Wednesday, May 18, 2011

ハーバードの「世界を動かす授業」 ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方

Author : リチャード・ヴィートー
Total Page : 299
Publisher : 徳間書店
Publication Date : 2010-08-27

ハーバードの「世界を動かす授業」 ビジネスエリートが学ぶグローバル経済の読み解き方
>> 世界経済の概況を知りたい方に
ハーバードビジネススクールのBEIGという授業で教えている、

世界のマクロ動向の内容をまとめた本。



日本、欧米、中国、欧州、ロシア等、

主要地域のマクロ環境の歴史的変遷、

そこから読み取れる国家としての戦略について

述べている。



ASEAN、インドといった、

近年注目の高い国がやや抜けているのが残念な点ではあるが、

それ以外の国の経済動向が網羅的に分かるので、

便利な本だと思う。

国家のとるべき戦略への示唆も、

非常に興味深い。



この本は古くなってしまうと、

価値が落ちてしまうので、

そこは留意した方が良いかも。


>> 普通の現代経済史概論
決して悪い本ではないが、本書に興味を持った方には、本屋で手に取り自分が読みたい内容と合致することを確認してから購入することをお勧めしたい。



日本の奇跡の復興、欧州の経済統合、社会主義の統制下で資本主義化と高成長に挑む中国、ソ連の崩壊とロシアの復活、デフォルトに喘いだ中南米、そして高い債務を抱え漂う今日の日米等々、主要国の現代経済史を概観したい方には、コンサイスにその内容を提供する本書は正しくそのニーズに答えるだろう。しかし、そのような教科書的な本は他にもあるだろうし、高い評価を得る作品とは言えない。



「ハーバード・ビジネススクールの人気講義」という宣伝文句に惹かれて、複数の国家の成功・失敗事例を「ケース」として取り扱い、国家の戦略策定のフレームワークを学びたい、そのような興味を持って本書を手に取ったなら落胆するだろう。本書では事実・歴史を概説するに留まっており、戦略論的な観点から各国の政府が当時なぜ・どのようにそのような政策を選ぶに至ったかは十分解説されていない。回顧的にマクロ経済的な観点から成功と失敗を説明することはあっても、戦略論的にダイナミックな議論は乏しいと感じざるを得なかった。



一点前向きに評価したい点は、著者が日本のケースを三本執筆しているからか、日本向けの作品だからか、日本の戦後復興については、他国の状況や自国の置かれている状況を分析したうえでどのような経済政策を取ったかがそれなりによく書けていると思う。ある程度各国経済動向に親しんでいてそのような概論を求めていない人は、日本とシンガポールの章および最後のまとめを読めば、最短でエッセンスは得られるかもしれない。
>> 授業の躍動感と仲條氏の貢献が伝わらず残念
本書の内容を「世界経済史に過ぎない」とする指摘があるが、

各国経済を歴史的視点から分析する単独科目としての歴史学とは学びの趣旨が異なると思う。



MBAのカリキュラムを考えると経済学で言えばマクロ・ミクロというように、

科目別の教科書やケーススタディを学習するのが一般的であるが、

それではグローバルにビジネスを展開する上で把握すべき各国の経済・政治情勢の実態・全体像

というものが浮かび上がって来ない。

これは、単独科目として世界経済史を学んだ場合でも同じだと思う。



その点から考えると、

ビジネス・政治・経済をグローバルな視点から統合して学ぶBGIEは非常に有効であると思う。



そして本書に示された「世界の動きを8つの軌道で捉える考え方」や、

「国家分析のフレームワーク」・「様々な立場の個人としてのミッション」等の内容は、

各国の歴史・経済・政治情勢といった事実関係や分析だけではなく、

企業戦略(国家戦略)立案のための「世界情勢を包括的に分析する枠組みや読み解き方」について、

簡にして要を得た解説になっていると思う。



しかしながら本書で残念なのは他の方の書評にもあるとおり、

「授業としての躍動感の欠如」と「仲條氏の貢献が乏しいこと」の2点ではないだろうか。



ヴィートー氏は序章で授業について、

「踊りださんばかりの興奮の時間」「さまざまな有益な意見が噴出する」としているが、

印中の国境問題にナーバスなった中国人学生の話以外に、

生徒である「エリート中のエリート」との臨場感ある授業中のやりとりの記述はほとんどない。



さらに共著者としての仲條氏が、

実際にこの授業を受けた上で、何を感じ、何を学び、何をその後に生かしたのか、

その実体験や知見を書くべきだと思うが、「あとがき」だけでは不十分と言わざるを得ない。



そうした内容を本書に期待した読者の方は少なくないと思う。



本書のタイトルは「世界を動かす授業」ではなく「世界の見方の講義録」の方が適切ではないだろうか。



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